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2025/05/14 13:31

皆さんは「ヴィシヴァンカ」という言葉を聞いたことがありますか?メディアなどでは、「ビシバンカ」と書いてあることもあります。


これはウクライナで古くから受け継がれてきた、刺繍の施された衣装のことを指します。ブラウスやシャツ、ワンピースが一般的ですね。

「着る者を守り、魔除けの力を持つ」と言い伝えられている、特別な伝統衣装です。その主な特徴として、手首・首周りそして胸から腹部にかけて刺繍が施され、厄気が中に入ってこないように護っているとされます。


名前の由来は、ウクライナ語で「刺繍する(バッテンに縫う)」という意味の вишивати(ヴィシヴァーティ) という動詞から来ています。その名の通り、布に✖️印を連ねるような繊細な刺繍が特徴です。大昔は5種類の刺繍が存在し、現存で手作業で作られる刺繍技法は主に2種類です。UA.Designerでもこれまで700着ほどのヴィシヴァンカを制作してきましたが、クロスステッチもしくはグラージュ・ニジンカ(平行縫い)だけです。

このヴィシヴァンカ、実はウクライナの国全体の象徴であると同時に、各地域の風土や文化も表しています。刺繍に使われる草花や樹木の模様、そして糸の色使いには、その土地の自然や伝統が息づいており、見る人が見れば「この人はどの地域の出身なのか」が分かるとも言われています。

地域ごとのヴィシヴァンカもかつて長崎県美術館にて展覧会を行うためにお作りしました。その殆どが購入者のもとへ旅立ち、現在では数着のみあります。

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刺繍の歴史は、4世紀にまで遡るとされています。キリスト教がウクライナで普及する前、ウクライナでは自然崇拝で多神教のような日本の神道と似た宗教がありました。現在もこの時代のお祭りが数多くウクライナには残っています。例えば、イワナ・クパーラと呼ばれる夏至祭(7月)が有名です。

ウクライナの伝統的な刺繍は、「赤と黒」の組み合わせがベーシックです。この刺繍の意味もかつての自然崇拝の宗教へ由来するとされます。

赤は「太陽」、黒は「大地」

ウクライナにはチェルノーゼムと呼ばれる肥沃で真っ黒な土があります。このおかげで食糧を多く確保できます。

ウクライナは「世界の食糧庫」とも言われ、小麦をはじめとする多くの食材の輸出先となっています。

毎年5月第3木曜日は「ヴィシヴァンカの日」という特別な日です。※2025年は5月15日(木)

この日は、ウクライナ中の人々が、自分の故郷や伝統的な模様が施されたヴィシヴァンカを身にまとい、街に出かけます。写真は、ゼレンスキー大統領とその奥さまのオレーナ夫人も、誇らしげにヴィシヴァンカを着ている様子です。


ロシアの侵略が続く中、ウクライナ国内では伝統を大切にする意識が高まり、日常でも気軽に着られるデザインのシャツやワンピースが増えています。若い世代にも受け継がれ、休日のオシャレ着としても親しまれています。


ただし、ヴィシヴァンカは日本の着物と同様、国を象徴する衣装です。カジュアルに楽しめる一方で、文化への敬意を忘れず、大切に着てほしいと思います。UA.Designerでは、これからも刺繍の魅力やヴィシヴァンカの意義を伝えていきます。


一方で、ウクライナ国内では手縫い刺繍を扱う場所が減少しています。観光客の減少で需要が減り、多くの職人は制作をやめ、機械縫いやプリントが多数を占めるようになりました。かつて賑わっていたコロミヤのヴィシヴァンカマーケットも縮小しています。長い伝統が戦争によって失われつつあるのは、非常に残念なことです。

UA.Designerでは現在、50名以上の職人と共に毎月ヴィシヴァンカを製作・販売し、職業支援を行っています。2023年9月からは、すでに700着以上を日本に届けました。


手縫いのヴィシヴァンカは1着につき約1ヶ月かけて作られるので、基本的にフリーサイズです。日本人とウクライナ人では体型差(特に手足の長さ)があるため、ユニクロや無印良品のような日本人仕様フリーサイズへ合わせた制作を行っています。※オーダーメイドも受けています。

また、日本の高湿度にも適したヨーロッパ産プレミアムリネンを使用し、レーヨンを50%配合することでシワになりにくく、快適な着心地を実現しています。

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手縫いと機械縫いの違いを簡単にご説明します。

製作の期間が全く異なるので、想いを含めた意味も異なりますが今回はあえて機能的な面についてお話し出来ればと思います。

大きな違いは、やはり糸の太さです。

裁縫経験のある方にはすぐにイメージがつくかと思いますが、一般的に手作業で作る糸とミシンで使う糸では太さがまるで異なります。手縫いの糸は太く、丈夫です。


そのため、手刺繍は固く太く丈夫で「一生もの」と呼べます。UA.Designerのヴィシヴァンカは、洗濯についてもそのまま洗濯しても問題ないものが多いです。

勿論、ネットに入れてのデリケート洗濯を推奨していますが、そのくらい丈夫です。


また、手作業ならではでウクライナの幾何学な模様を再現する中で目立たせたい色によって糸の太さを変えて抑揚をつけます。さらにUA.Designerのヴィシヴァンカは、シルク糸を用いた刺繍も数多く製作しています。これはミシンで細い糸を使うととてもじゃないですが、繊細なシルク糸はすぐに脆くなってしまいます。


千年の時を超えて今もなお、心を込めて刺された模様たちは、現代を生きる人々の心をも温かく包み込んでくれます。

ウクライナの人々の誇りと祈りがこもった、この美しい伝統衣装を、ぜひ一度ご覧になってみてください

以前、YouTubeでも詳しく「ヴィシヴァンカとは、そしてUA.Designerこだわりのヴィシヴァンカ」について解説した動画があります。

こちらも合わせてご覧頂けるとさらに詳しく分かります。